乳牛とカルシウム
ここ数年、乳牛に対するカルシウム給与の考え方はめまぐるしく変化しています。
「リンカルを給与すべきだ」
「サンゴなどの動物性カルシウムを給与するとよい」
「乾乳期はカルシウムを給与しない方が良い。」
などなど、さまざまな技術が各種専門誌をにぎわしました。
しかし、技術的側面とは別に、乳牛の実態からのアプローチが近年増えてきています。
「乳牛は慢性的なカルシウム不足だ」
「未経産牛の時点でカルシウムが足りていない牛がほとんど」
といった、実例と、その原因となる考察として、
乳牛の大型化に伴うカルシウム要求量の増加や、
牧草のCa含量の低下に伴い、気が付いたら従来よりカルシウムが足りていなかった、
育成段階での配合飼料給与量増に伴うカルシウム摂取の低下 など
つまりは「現代の牛のカルシウム給与、見直した方が良いんじゃね?」
といった考えが日に日に増しているように見えていますし、
私自身もそのように思い、5年ほど前から、
育成牛も含めたカルシウム給与のあり方について考え見直し実践してきました。
整理して考えると
カルシウムが不足する要因として、個人的な見解ではありますが、
以下の4点ほどが考えられると思っています。
①牛が大型化していて、育成の段階で従来よりカルシウムが必要になっている
②粗飼料由来のカルシウム(主に細胞壁由来)が、高消化性の牧草などの普及により
従来よりもカルシウム含有量が低下している
③濃厚飼料の給与量増により、飼料中のリン濃度が上がり、カルシウムが体外へ排出されやすくなっている
④乳量増加に伴う乳汁中へのカルシウム排出量の増加
それに付随して、牛に発生する問題として
①乳熱(低カルシウム血漿)の発生
②後産停滞の発生
③漏乳の発生
④第四胃変異の発生
⑤消化器系の活動低下
⑥歩行速度の鈍化
⑦起立・横臥回数の低下
⑧免疫力の低下
⑨繁殖成績の低下
などなど、カルシウムの体内での生理的利用を考えれば、
カルシウムが不足することで起こりうる要因は無数にあげられます。
じゃあどうするか。
単純に、カルシウムの給与量を見直す必要があります。
実際に、カルシウムは一日にどれだけ必要かですが、
一日に30kgの牛乳を搾っている牛で考えると、
牛乳200mlに220mgのカルシウムが含まれるとして、
牛乳1kgでは1100mg。
これの30倍になるので33000mg=33gものカルシウムが
血液中に吸収される必要があります。
乳汁中に溶けていくカルシウム量だけでこの量が必要となります。
このほかにも、乳牛は3産目くらいまで、骨の成長がありますから
骨の成長に必要なカルシウムや
胎児の成長に必要なカルシウム。
免疫細胞の働きにも必要ですし、筋肉を動かすのにも必要です。
さらには、ストレスにもカルシウムが溶け出していきます。
そう考えると、結局どれだけのカルシウムが必要か、実態をとらえるのは
なかなか困難になってきます。
そう思って、私は、育成牛に毎日タンカルで200g、乾乳牛にも200g、
搾乳牛に至っては500g程度を給与しています。
まず、なぜタンカルかですが、
現在の配合飼料の給与量からすれば、リンが過剰になっているのは否めません。
リンはカルシウムの結合して血液中に存在しますが、
多すぎるリンは、逆にカルシウムを体外へ運び出してしまいます。
そのため、リンカルなどのリンを含有するカルシウムを給与しても、
飼料全体のバランスを考えた時に、その効率は非常に悪くなってしまいます。
また、タンカルを含め、多くのカルシウム資材は
他の元素と結合した状態のため、同じ100gの給与を行ったとしても、
リンカルでは約1割、タンカルでは約3割と、その含有量に大きな差が
発生してしまうので、注意が必要です。
以上の様なことから、私はタンカルで単純にカルシウムだけを給与する事を考えました。
結果的に、この2年間、導入牛も含め、第四胃変異の発生は未だ0件です。
また低カルシウム血漿による起立不能は、導入牛に関しては2年間で分娩頭数の
0.5割ほどいますが、うちに半年以上在籍後の分娩牛に限っては
起立不能の発生は0件です。
また、タンカルの給与量を搾乳牛で200gから現在の500g、
乾乳牛で50gから現在の200gに増給してからは
後産停滞がなくなり、娩出までの時間が、いずれの牛も5時間以内、
多くの牛が2時間以内に娩出するようになりました。
周産期疾病の発生がほとんどなくなっているのが、うちの現状です。
もちろん、当牧場での結果で、どの牛群でも当てはまるとは言いませんが、
これだけ多くの学者が、「カルシウムが足りていない」と論ずる中で、
その給与量、給与方法、資材の選択を見直さないのはもったいないかなと感じます。
現在も、多くの牧場が苦しんでいるであろう起立不能や四ペンといった
周産期疾病ですが、タンカルという至極安価な資材で、
問題の改善につながる「かも」しれないのなら、
今一度、自身の行っているカルシウム給与量、給与方法などについて見直し
実行してみる価値は十分にあると、強くお勧めしたいとおもいます。
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